活動報告
2013/02/16各地の実践レポート東日本大震災復興支援特別プロジェクト活動レポート
会津坂下町役場生活部保健師・小瀧さんのお話
「この時代に母親になる戸惑い」というもの
会津坂下町は年間出生が120人前後です。今、その2割くらいのお母さん方は、誰かの手助けを必要とされているんじゃないかなと感じています。母子保健事業に携わっている中で、子どもとどう接していいかわからないお母さん、たくさん溢れている子育て情報をどう選択していいかわからないお母さん、周りとの比較を刷る中で不安になったりするお母さんたちに出会うことが多くなったと感じています。お母さんの目の前で容赦なく泣き叫んで本能のままに感情をぶつけてくる子どもがいてどう接していいかわからない、その一方で、親になるまでの自分を失いたくないと思う気持ちもあって辛さが倍増するというお母さんも多いように感じますね。
子育て家庭が孤立する中で
ひろばや相談会を開催しても参加されない、大勢の人がいるところに出かけてくるのが苦手なお母さんが増えている傾向にあって、育児が家庭の中で行う「個」の作業にイメージ化されるようになっています。その家庭自体が孤立していても、そんな状況でも命は生まれてくるわけですから、とにかくなんとかして手を差し伸べることができるしくみを地域社会に作っていかなくては、という思いでいました。一方で、行政は簡単に動けないという歯痒さに地団駄を踏んでいました。保健師も母子保健の業務だけをしているわけではないですし、行政や専門職だけでは必要な時に必要なところに手を届けることができないと感じていた日々に、渡部さんからホームスタートという活動があるというお話をききました。
ホームスタートを初めて耳にした時
最初その話を聞いた時には、「全戸訪問や養育支援訪問、ファミリーサポート事業とどこがどう違うんだろうか?同じ事業展開になるんじゃないだろうか?」とか、ちょっと大げさですが、「保健師の領域がおびやかされるようなことになるんじゃないだろうか?」と感じていました。ひいては、「本当は行政がやらなくちゃいけないことじゃないか?というような行政批判を浴びることになりやしないか?」と実は内部でも話が出たりしていて当初は尻込み気味でいたんです。そんな中でも渡部さんは「とにかくまずはどんなものなのか
知ってください」と熱心に話され、実際にホームスタートの説明会に参加してみて、そこで、私たちと同じ思いで親の思いに寄り添って一緒に歩んでゆく事業なんだと理解できました。そこからスタートして、ホームビジターさんの紹介や養成講座にも関わらせていただくようになりました。
ホームスタートを進めるために
行政と民間団体が互いに安心して信頼を託せるためには、倫理観を一緒に構築していくことが大事なんだと思います。「実際の訪問支援がどのように進むのか?」「お互いどういう役割分担をするのか?」という点についてチャート図を作っていただき確認をしながら準備を進めていきました。それと同時に、「ホームスタート事業を町の既存の施策の中のどの部分に位置づけるのか?」という体系作りも内部で協議を始めました。訪問支援の質の担保として、「ホームビジターさんがどのような立ち位置なのか?」ということも当初最も知りたかったことでしたね。それが、「傾聴」と「協働」なんだということも段々わかっていくことができました。
ホームスタートと保健師の訪問との違い
保健師側が敷居を高くするつもりはなくても、保健指導をするイメージを持たれることが多いですし、健診時も訪問時も子どもの発育や発達を確認することが業務として必要になります。そういうことも全く関係なく、旦那さんのことや生活のことなどをとにかく全部きいてくれるという安心感や、フレンドリーに手を差し伸べてくれるホームビジターの位置には私たちは立てないなぁと痛感しています。そして支援者にもいろんな役割があって、ホームビジターのような人が傍らで親を支えることで親育ちがうまくいくのだと思います。
オーガナイザーもホームビジターも民の立場でいることで、より家庭を地域に開きやすくしていくのではないでしょうか。どうしても保健師の立場では公的な看板を背負っていて、時には訪問を拒まれるようなこともあります。保健師としては専門性が必要ですし、そうした知識を役立てていただけるところがあったとしてもお母さん自身がもっている行政に対するイメージというものがありますから。保健師もホームスタートの皆さんも目的は同じですから、地域ネットワークの中に民間のオーガナイザーも一緒に入ってもらうことで、そうした支援のすき間が埋められていくのだと思います。
家庭を一緒に支えてゆくために
私は子育てにプロはいないと考えています。現実の暮らしは理念通りにいかないことが多く、個人のいろんな体験を一般化するということはかなり難しいことだと思うんですね。裏を返せば、子育てにも100人100通りがあって、それでいい。地域の皆さんの経験それぞれを活かしていけるノウハウがあれば、その中で人材を発掘したり育成したり行政も一緒にやっていける、そういう協働としてそれぞれの家庭を支えることなんだと思います。そのためには手をさしのべてくれる活動母体となる団体が必要ですから、一緒に同じ目的に向かって役割分担をし、相談をしながら進めています。
同じ家庭を一緒に支援をしていく上では、土台となる情報は共有していても、保健師側、ホームスタート側、それぞれにお母さんが話せることは違うとも思います。なので、細かに情報を交換することが必要だと感じた場合には、お母さん自身にその必要性をご理解いただき、了承いただいた上で共有するようにしています。
利用されている方が、「支援の必要性を保健師側とホームスタート側双方に伝えた方が自分がよくなれるんだ」とわかることで、お母さん自身に双方に話しても大丈夫という確信が培われていくんだと思います。いろんな方が支援に関わることがよくなるためには大事なことですよと働きかけることで、安心感をもって同じようにだんだん伝えられるようになって来られますね。
ホームスタートの効果
育児に自信がもてないという方が増えているんですが、子育て中の様々な思いを誰にも語れないというのはひどくツライことで、お母さん自身がそのことを上手く発信できずにいると感じます。「旦那にも言えない、実父母にも言えない、ましてや義父母には話せない、、、この世で私と子どもと二人きり、、、」というような相談を切々と受けることがよくあります。一度そうしたことを電話で40分ほどお話しになっていた方があって、ホームスタートを紹介したことがあります。最初は、「自分の話を聴いて!」という話の内容だったんですが、「これこれについて教えてほしいんですが」という風に内容が変わってきました。訪問の最終に近くなってくると、「ビジターさんに、“大丈夫よ!頑張っているもんね。”って言ってもらえたんですよ。誉められました~。」と嬉しそうに話す電話に変わってきて、すごくびっくりしました。子育てすることに自信や喜びを持てるようになるサポートなんだなと実感できました。親の自尊感情だったり、自分の親としての価値を認めてもらって、「親自身がもっている頑張ろうという気持ち」を育てているとすごく感じます。
今の時代、子どもを育てるのに昔以上に親が力を注げるようになってきていますが、時には過剰になったり、わが子だけはとにかく一生懸命育てたいという風になりがちです。そんな中で、子ども自身の育ちを信じて支え、子どもが育っていける環境を整えてくださっているとも感じています。ホームビジターさんに訪問していただくと、お母さんもリラックスして気持ちを切り替えて、心に余裕やゆとりをもって子育てできる環境になっていくんだなと実感しています。
ホームスタートを子育ての喜びを地域全体で分かち合う事業として
子育て支援の目標は、「親が自分を信じて、自分なりに考えて判断して、楽しみながら、自分らしい子育てができること」だと思います。子育ての中には他人が親の肩代わりをできない大切な部分がありますから、親自らが子育てを担っていける力をつけてほしいというのが我々の願いです。「家庭で子どもを産み育てる間に築ける子どもの人間観というのは、人の社会生活を支えていけることになるんだよ」という子育ての醍醐味をやがて知ってもらえるように、一緒に歩んでいきたいと思っています。未来を生きていく子どもたちを育成する責任は、大人社会すべての責任だと思います。地域のたくさんの人々の関わりがたくさんの喜びを分かち合うことになると思うので、地域住民の参加による行政との協働の子育て支援策=ホームスタート事業として、これからも共に実践し評価し継続していきたいと思います。ホームスタート事業によって、今後、子育て支援の文化的イメージというのが高まっていくんじゃないかなとも期待しています。
