活動報告

会津坂下町でのホームスタートの協働・会津坂下町役場安藤部長のお話

ホームスタートの訪問支援ボランティア活動では、安定的に、且つ、よりよい支援を届けるためにも、行政の担当職員の方々との協働は重要になります。
今日は、民間団体と行政との協働が進んでいる会津坂下町役場のお二人に、ホームスタートについてお話をお伺いしてきました。

会津坂下町役場 生活部 安藤部長

 会津坂下町はおよそ5000世帯で、核家族が増えて地域のコミュニティの形成が難しくなってきていると感じています。同時に、全国的に育児放棄や幼児虐待という不幸な事件も増加している中で、これはいわゆる対岸の火事という状況ではないという感覚も強めていました。ちょうどそのころ、保健師から、「自分たちでは全ては訪問できないけれど、もう少し訪問し支えた方がいいと感じるご家庭がある」と相談がありました。が、具体的な方策はない状況でした。
その頃、NPO法人こころの森の渡部さんから「ホームスタート」というものがある、ということを聞かされました。まずは、ホームスタートがどういうものか知ろうということで、ホームスタート・ジャパンの皆さんに来ていただきました。ロールプレーを交えた説明を聞いて、「なるほど!これなら地域の人の問題を解決できる!ことが起こってから後から対処するのではなく、今できることだ!」と、感じました。
「経験者から聞けばこんな簡単なことなのに、ものすごく悩んでた」「小さなことを大きな悩みにしてしまっていた」ということは仕事をしていてもよくあることだと思います。口で言うほど簡単ではないけれども頭で考えるほど難しくはないというのと同じで、子育てにしても、小さなことを頭の中で考えて大きく悩んでしまった時に、人に話して聞いてみると「そんな大したことではなかったんだ」と気づくことがあります。これがホームスタートの原点で、ほんとに一緒に寄り添っていくことができる素晴らしい事業なんだと思います。子育てで悩んだ時に利用できる、助かる、という地域の人の安心感につながる事業だと思います。
ホームスタートは、ホームビジターが訪問することで町の財産である子どもや家族が育っていくことができる事業です。そして、その子どもが大きくなってやがて町に貢献をしてゆく大きな宝をつくる事業です。もっと多くの地域で始まることを願っています。

会津坂下町では、NPO法人こころの森・渡部さんたちが、まず「セーブ・ザ・チルドレン×ホームスタート復興支援ファンド」を活用して、ホームスタートを取り組み始めました。そして、その後、まもなく、町の事業として位置づけられてゆきます。会津坂下町生活部安藤部長に、自治体事業としてのホームスタートについて語っていただきました。

自治体としての取り組みへ

町には振興計画があり、その実施計画に計上するために具体的な取り組み方法を練る必要があります。そのために、まず、委託先として運営主体となるNPO法人、保健師、生活部、教育部など関連部署や団体との連絡調整を始めました。ホームスタートの必要性と効果をこれら担当部署で共有し、それを実施計画に計上していったというプロセスです。
子どもたちの施策は最優先という流れはありましたが、潜在的なニーズや未来への投資ということを語る中で、事業化することができていったと感じています。事業の必要性を役場全体に理解していただくことが必要ですし、活用できる国や県の交付金が明確であればさらに事業実施の優先度は上がっていくというものだろうと思います。
本来であれば、「ホームスタート事業」というのを国の子育て支援のメニューに明確に入れていただけるのが普及には一番いいですね。もしそれができないというのであれば、個別メニューでなくとも、子育て支援の予算の使い道を拡げていただけたらと思います。ただ、解釈によって使えるというだけでは、支援のすき間はなかなか埋まっていかないと思います。例えば、既存の保健師による訪問事業予算をホームスタートにも使えるというのではなく、保健師の訪問事業費とは異なる枠で、ホームスタート事業に使える予算枠を設ける必要があると思いますね。

民間団体へ委託する意味

保健師が直接訪問する事業もありますが、人員的な制限もあり保健師だけではできないところがあるのが現状です。民間が率先してその一部を担おうとしてくれている有難さを私は感じました。行政というのは、決して上から目線で見ているつもりはなくても、どうしても「お役所」というイメージがあって、同じことを言っても民間同士のようには受け止めてもらえにくいという事実があります。ただ、民間に丸投げをするというではなく、委託先を常に支える体制をとることが行政として一番重要だと思います。実践面で民間の方が優れていることはたくさんあります。安心して民間の方々が活動できるように後ろで支える役割を行政が担うことが大切です。行政も民間団体も同じ会津坂下町を好きな者同士、一緒に町のために考えて行動していくことで皆が嬉しくなり、コミュニティはつながっていくものだと実感しています。
NPOといってもいろいろな団体がありますが、私自身がチェックポイントとしている点は、まずは、「主たるメンバーのその活動に対する思いがどれだけあるか?」そして、「その事業を自分たちがどう実践してゆくかについてしっかりとした考え方を持っているか?」という点です。

町民と共につくる協働の町

振興計画を町民と一緒に作ったのが町民が参画するきっかけでしたね。行政でできること、できないことは何なのだろう?町民でできることは何なのだろう?ということを考える契機になったと思います。職員も加わりながら何度も何度も会議をして、最終的にまちづくりのNPOが立ち上がりました。そこから、他の分野のNPOができてきました。自分たちの町をよくしよう!という思いと役割分担ですね。行政ができるバックアップ体制は、まずは資金だと思います。民間の中で行政以上に効率よく行っていただくためにです。それから、行政でなくてはできない広報周知などが当てはまると思います。
町民の人との対話の中で、行政の場合「ここまでしかできない」というような既成の枠の中での考え方を持ちがちだと気づかされました。また、「これを行政がやる必要性があるのか?」という点を事前に十分確認しないと前に進めない面があります。それに対して民間の良さは、「こういうことをやりたいからちょっと集まらないか?」という発想で集まったり動ける良さがあります。実はこれが大きな力だと思います。機動力であったり、発想だったり、ものごとを違う角度でみたりすることが民間ならではだと感じています。

協働へのアドバイス

私たちも最初から円滑に協働できたわけではありません。最初は何度も何度も話し合いの場を持ちましたし、私も怒ることもありました。民間団体側も自分たちの思いを遂げる時に、行政側の思いはどうだ?と訊くことも大切です。行政が動かないから、行政が私たちの言うことをきいてくれないから、という考え方になりがちですが、そういうことではないはずです。行政も民間の人たちの助けを借りたいと思っています。その一方で、民間団体の熟度が上がっていかないと頼むわけにもいかないというジレンマを各自治体の職員の方は抱えていると思います。決して「いらない」と言っているわけではないはずですから、その辺をよく話し合ってみてほしいと思います。例えば、町が必要としている事業をよく聞いて理解して、一度、計画書を作ってみてください。それを町の職員に出した時に、それを見もせずにダメだということはないはずです。何が足りないのか?という点を確認していきながら、この点はどうなのか?と問われたときにしっかりとした回答や提案ができるようになれば、前に進むことはできるはずです。